問1 心房細動に関して正しいものをえらべ。
a) 80歳以上での有病率は40%である。
b) 肥大型心筋症との合併例は予後良好である。
c) 発症後一か月間続く心房細動を持続型という。なお1年以上続くものを長期持続型と呼ぶ。永続型とは、除細動不能例を指す。
d) 心房細動には遺伝的関与が挙げられる。
e) 心房細動の発生機序にリエントリーは関与していない。
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a) 人口の9-14%である。
b) 前負荷が下がり、急激に血行動態が破綻する。ショックに移行する場合もある。
c) 心房細動が7日以上続くものを持続型という。
d) 両親のいずれか一方に心房細動を認めると心房細動発症リスクが1.85倍高まり、75歳以下での発症例に限ると3.23倍高まる。常染色体性優性遺伝を示す家族性心房細動が報告され,候補遺伝子としてKCNQ1 遺伝子変異などが見いだされている。
e) 心房細動の成因として、局所の異常興奮(自動能)の亢進(focal mechanism)と、複数興奮波(multiple wavelets)の不規則な旋回運動(random reentry)が実験的かつ臨床的に示されている。
問2.心房細動における電気的・構造的リモデリングの説明として誤っているものをえらべ。
a) 複数興奮波のリエントリーが成立するためには、興奮波長が十分に短いか、心房自体が拡張している必要がある。
b) 興奮波長は伝導速度×不応期で決定されるため、伝導速度が遅いか不応期が短いことが心房細動持続の必要条件となる。
c) 「atrial fibrillation(AF) begets AF」という概念は、頻脈性心房細動で心房の不応期が短縮し(電気的リモデリング)、複数興奮波のリエントリーが可能となるもので、心房細動の慢性化の要因として重要である。
d) 高頻度興奮による細胞内Ca2+蓄積と膜Ca 電流の減少、活動電位持続時間の延長が考えられている。
e) 心房細動が長期に持続すると心房筋の肥大や線維化、ギャップ結合の変化などが生じる(構造的リモデリング)。
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細胞内Ca2+蓄積と膜Ca 電流の減少が起きると、活動電位持続時間は短縮する。頻脈が続くと、チャネル自体がダウンレギュレーションし、Na電流の減少で電流速度も低下し、興奮波長は一層短縮する。構造的リモデリングを起こすと、線維化により伝導速度が低下し、不均一伝導でリエントリーが起きやすくなる。臨床的には左房拡大の有無が指標となる。
問3. 心房細動の臨床像について、正しいものをえらべ。
a) 発作性心房細動をI 群薬で治療した場合、1 年あたり平均10%は治療抵抗性を示し持続性心房細動に移行する。
b) 持続性心房細動で電気的除細動での洞調律復帰は不可能である。
c) 持続性心房細動の除細動後、1年間の洞調律維持率は50%である。
d) 初発心房細動が自然軽快しても、多くが数年で慢性化する。
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a) 持続性に移行するのは5%/年である。
b) 94%の例で可能。
c) 文面通り。
d) 半数は再発なく経過する。
問4. 疾患別の心房細動への治療方針について正しいものを二つえらべ。
a) 低心機能合併例において、Naチャネル遮断薬を用いた。
b) 肥大型心筋症合併例において、洞調律維持目的でアミオダロンを用いた。
c) 慢性呼吸器疾患合併例でテオフィリンを用いた。
d) WPW症候群合併例でジギタリスまたはベラパミルを用いた。
e) 妊婦が発作性心房細動を発症後に自然に洞調律に復帰したので経過観察とした。
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a) Naチャネル遮断薬は陰性変力作用が強く、かえって予後を悪化させる。
b) Vfに移行しうるので、電気的除細動の適応になることもある。
c) テオフィリンはafの誘因のひとつである。実臨床で使用されているケースが散見されるが、慎重なフォローが必要である。
d) 国家試験でも有名な禁忌事項。Ⅰ群抗不整脈薬を用いるが、ジソピラミドは抗コリン作用が強く、シベンゾリンを用いた方が無難。最短R-R間隔が250msecのafは高リスクとされる。
e) 妊婦に対する有効な薬はなく、脈拍調節に努めるしかない。一過性のPafの場合は、再発の予防治療なしで分娩可能である。
問5. 2013年の心房細動診療ガイドラインにおいて、CHADS2スコアが1点の場合に推奨されている薬剤を二つえらべ。
a) ダビガトラン
b) アピキサバン
c) リバーロキサバン
d) エドキサバン
e) ワルファリン
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NOACの各第III 相試験のサブ解析から、ダビガトランとアピキサバンはCHADS2スコア1 点で「推奨」に値すると判断された。リバーロキサバンとエドキサバンは第III相試験にCHADS2スコア1点の症例を含まないため「考慮可」との記述にとどまっている。ワルファリンに関しては、出血のリスクとの兼ね合いがあり「考慮可」となっている。なお、2015年の脳卒中ガイドラインでは、「DOACの種類は問わない」という記載になっている。本設問の基になった心房細動診療ガイドラインは2013年時点でのエビデンスによるものであり、5年以上経過した昨今の臨床感覚とはやや乖離がある。
問6. CHADS2スコアに含まれないリスクファクターとして、NOACやワルファリンが「考慮可」とされる因子を3つえらべ。
a) 心筋症
b) 女性
c) 心筋梗塞や血管疾患(大動脈プラークやPADなど)
d) 甲状腺疾患
e) 年齢(65歳~74歳)
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従来のガイドラインで記していた「女性」は、65 歳未満でほかに有意な器質的心疾患を伴わない場合には単独の危険因子とならないこと、65~74 歳は性別に関わらず考慮可となりうることから、単独の因子として記載しないこととなった。甲状腺疾患も単独ではリスクとして十分に検証されていないので削除された。
問7. 抗凝固療法中の出血リスクに関し、特に注目される重大な出血関連因子に該当しないものをえらべ。
a) 薬剤、アルコール歴
b) 50kg以下の低体重
c) 不安定なPT-INR値
d) 75歳以上の高齢者
e) 50ml/min以下のクレアチニンクリアランスを示す腎機能低下例
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設問の全ては、HAS-BLEDスコアに該当する項目であるが、特にa)、b)、d)、e)が重要とされる。特に薬剤(抗血小板薬との併用)とアルコールの項目、および腎不全の項目はスコアでは2点となる点も重要である。このほか、HAS-BLEDスコアでは高血圧と出血性素因がある。
問8. 除細動前後の抗凝固療法について正しいものをえらべ。
a) 発症48時間以上経過したと推定される例では、除細動前1週間のワルファリン投与が望ましい。
b) 発症48時間以上経過したと推定される例の場合、血行動態が不安定でも除細動は禁忌である。
c) 発症48時間以上経過したと推定される例では、除細動後4週間のワルファリン投与が望ましい。
d) 発症48時間以上経過したと推定される例で、除細動前にダビガトランを投与する場合はclassⅠに相当する。
e) 経食道心エコーで血栓があれば、除細動前1週間のワルファリン投与が望ましい。
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a) 発症48時間以上の例では、血栓があるものと推定して、除細動前3週間のワルファリン投与(維持量に到達してから3週間)がclassⅠ。
b) 血行動態が不安定であれば、除細動前にヘパリンの静注が行われる(classⅠ)。
c) 文面通り。
d) ClassⅡaに相当する。しかし、ワルファリンに比べ速やかに治療域に到達する事から、ワルファリンよりも除細動前の抗凝固期間が3週間で収まる利点がある。
e) 上記a)と同様である。
問9. 処置前にワルファリンをヘパリンに置換する必要のあるものを二つえらべ。
a) 抗凝固薬単独内服中の症例で出血低危険度の消化管内視鏡手技を行う場合
b) 抗血小板薬併用中の症例で消化管内視鏡手技を行う場合
c) ペースメーカ植え込み術
d) 白内障手術
e) 大手術
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消化管内視鏡検査ガイドラインの改訂により、抗凝固薬単独の場合はヘパリン置換が不要とされた。
問10. 心房細動の心拍数調節について、正しいものを二つえらべ。
a) 目標心拍数は130bpm未満である。
b) ジギタリスは運動時の心拍数も低下させる。
c) 副伝導路がある場合にはⅠ群抗不整脈薬を用いる。
d) ジギタリス、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は併用できない。
e) 薬物療法での脈拍調節が困難な場合、房室結節や副伝導路への焼灼術はclassⅡaである。
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a) 目標心拍数に関するRACEⅡtrialでは、110bpmでも80bpmでも有害事象の出現頻度に差はみられなかった。このことから、目標心拍数は110bpm以下で、自覚症状の出ない心拍数とされる。なお、130bpm以上では心不全が惹起される。
b) ジギタリスは副交感神経系の活性時に効果を発揮するため、安静時心拍数しか抑制しない。
c) 文面通り。副伝導路が無ければβ遮断薬、ジギタリス、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、アミオダロンが用いられる。
d) 併用はclassⅡaで認められている。
e) 文面通り。
問11. 心房細動の洞調律化について適切なものを二つ選べ。
a) Brugada症候群合併例へのNaチャネル遮断薬の投与
b) 持続性心房細動へのベプリジルの投与
c) QT延長を認める例へのベプリジルの投与
d) ベプリジル不応性の持続性心房細動に対してアプリンジンの併用
e)器質的心疾患が無い場合にもアミオダロン使用の保険適応は認められている(2013年ガイドラインの時点)。
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a) Brugada症候群のST上昇を助長しうるので禁忌。
b) ClassⅡaである。保険適応も認められている。
c) 禁忌。ベプリジルの除細動効果とQT延長効果はJ-BAF試験で明らかにされた。
d) ClassⅡbである。
e) 肥大型心筋症や心不全の例にのみ承認されている。ベプリジルの効果は限定的であり、器質的心疾患を有する場合にはアミオダロンの方が推奨される。